田迎からの塾通い

【田迎から通う君へ】
ある日の雨と、借りっぱなしのTシャツの話

田迎町。
熊本市南区にある住宅街で、静かで暮らしやすい地域です。私たちの教室からは、自転車で約10分。坂も少なく、比較的通いやすい距離といえば距離ですが、夕方の登塾時間帯に、毎回この距離を往復するのは、なかなか根気のいることです。

今までにも、何人もの生徒が田迎町から通ってきてくれました。現在も何名かが通塾しています。

あの日、突然の夕立がやってきた

数年前のことです。夏の終わりごろだったでしょうか。夕方になると少しずつ空が暗くなり始め、教室が始まる少し前、「ザーッ!」という音とともに、にわか雨が降ってきました。
それは“にわか雨”と呼ぶには激しすぎるほどで、しっかりとした、音の大きな本格的な雨でした。

まさにそのタイミングで、教室に生徒たちが続々とやってきました。

「うわー!濡れた~!」と駆け込む生徒たち

「うわー!」「やばい、ずぶ濡れ~!」と、声を上げながら駆け込む子どもたち。
傘を持っていた子も、持っていなかった子も、結局は皆それなりに濡れてしまっていて、教室の入り口はちょっとした騒ぎになっていました。

「いきなり降ってきたね~。けっこう濡れたでしょ?」と、慌ててタオルを配りました。

田迎からの生徒は、それ以上に濡れていた

その時、田迎町から通っている男の子がいました。
彼は他の生徒と比べて通塾時間が長いため、濡れ方も一段とひどく、制服の袖やズボンから、ぽたぽたと水が床に落ちるほどでした。

さすがにこれは、タオルじゃどうにもならないな…と思い、

「どうする?いったん家に帰る?」と声をかけると、

彼はにっこり笑って、『ぜんぜん大丈夫っす!』と元気に答えました。

その一言が、なんだか嬉しかった

その明るい返事に、こちらがちょっと嬉しくなってしまいました。
だけど、それでも風邪をひいたら元も子もない。

「ばってん、それはあんまっばい。ちょっと待っときなっせ。」
そう言って、2階から私服のTシャツを持ってきて、手渡しました。

「せめて上だけでも着替えなっせ。風邪ひいたらたいへんけん。」

彼は照れくさそうにしながら、「ありがとうございます、洗って返します」と言って、Tシャツを着替えてその日の授業を受けました。

Tシャツの行方と、あの日の思い出

授業が終わり、濡れた制服を持って帰る彼の後ろ姿を見ながら、「ああ、この子はきっと、いろんなことに一生懸命取り組む子だな」と思ったのを今でも覚えています。

彼はその後、公立高校に合格し、きっと今は楽しい高校生活を送っていることでしょう。
勉強だけでなく、部活や友達との時間も、思い切り楽しんでいるに違いありません。

…ただ、一つだけ気になることがあります。

君は忘れているかもしれないけれど

あのとき貸したTシャツ。
実は、まだ返ってきていません(笑)

きっと、洗ってはあるけど渡しそびれたまま、引き出しの奥に眠っているのかもしれません。
あるいは、どこかで日常の一部になってしまっているかも。

もちろん、怒っているわけじゃありません。
むしろ、あの一日があったことを、私はなんだか嬉しく思っています。

でも、もしこの文章を読んで、「あっ…」と思ったなら、気が向いたときでいいので、返しに来てくれたらちょっと面白いかな、なんて思っています。

教室は、いつでも待っています

私たちの教室は、毎年いろんな子どもたちが来て、巣立っていきます。
勉強を教えるだけじゃなく、こうした“ちょっとした思い出”も一緒に作っていけたらと、常に思っています。

あの雨の日も、私にとっては忘れられない、温かい一日です。

そして、もしかするとあなたにとっても、いつかふとした瞬間に思い出す「塾の記憶」になっていたら、うれしいなと思います。


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白石泰宏プロフィール


白石泰宏(しらいしやすひろ)1980年生まれ。国立熊本電波高専電子工学科卒業後、航空自衛隊に勤務。退官後、海外に15か月の留学。家庭教師、大手・個人塾講師を計3校経てひまわり教室を開校
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